エンジン熱効率の数字だけで各社のハイブリッドエンジンを順位付けすることはできない。エンジンの最適設計はシステム構造によって決まり、システム燃費はエンジン以外の多数の要素の積で決まる。さらに、定常分析が捉える効率と実走行燃費の間にも、動的最適化能力の差という見過ごされがちな次元が存在する。
従来のガソリン車であれば、エンジン熱効率=燃費という近似が成立した。エンジンが直接タイヤを駆動し、変速機の損失を引いた残りが走行エネルギーになる、という単純な構造だったからだ。しかしハイブリッド車では、エンジンの軸出力が車輪に到達するまでに、複数の経路と複数のエネルギー変換段階を経る。この変換経路の構成こそが「システム」であり、その違いがエンジンに要求される最適設計を真逆の方向に分岐させる。
本稿では① エンジン諸元、② システム構造、③ 動的最適化、④ 測定サイクルとカタログ表記の順に考察する。
熱効率の数字(46% vs 41%)は①エンジン諸元という一要素にすぎず、HEV/PHEVでは間接的な要素になる。さらに②〜④を加味すると、観測される実燃費は公称値から乖離していく。
結果として、各社は自社のシステム選択に対して論理的に最適化されたエンジンを実装している。本稿では各システムを、その性質と要求するエンジン特性、実装されたエンジンの3点セットで提示し、定常分析(Section 06)→動的最適化(Section 09)→カタログ表記(Section 10)と認識を順次補正していく。
本セクションでは、各社1.5L級ハイブリッドエンジンの諸元を比較する。これらの数字が示す技術的特徴と、それぞれが採用された設計思想・前提システムの詳細はSection 03〜05で、システム燃費への寄与とその実走行性能評価はSection 06〜10で扱う。
| エンジン項目 | トヨタ M15A-FXE (現行3気筒・参考) |
トヨタ X15 (仮称・将来4気筒) |
BYD Xiaoyun 1.5 | ホンダ LEB (現行1.5L) |
日産 ZR15DDTe |
|---|---|---|---|---|---|
| 気筒数 | 3 | 4 | 4 | 4 | 3 |
| 過給 | NA | NA/ターボ | NA | NA | ターボ |
| S/B比 | LONG 1.21 | SHORT | 1.28 | ~1.16 | LONG ~1.26 STARC研究機ベース |
| 圧縮比 | 14.0:1 | 非公開 | 15.5:1 | 13.5:1 | ~13.5:1 STARC研究機ベース推定 |
| 公称ピーク熱効率 | 41% 世界最高水準 |
非公表(推定~41%) | 43-46% | 40.5% PFI最高水準 |
42% |
| 推定実走行平均効率 | 38-39% 広い台地 |
— 未発売 |
38-40% 尖ったピーク |
38-39% | 39-40% 定点滞留前提 |
| 前提システム | 動力分割 | 動力分割 | シリーズ+ロックアップ | シリーズ+ロックアップ | e-POWER |
| 熱効率がシステム燃費に効く度合い | 中(電気パスで一部相殺) | 中(電気パスで一部相殺) | 高(直結時に直接反映) | 高(直結時に直接反映) | 低(変換損で間接的) |
| 日本実走行の総合燃費序列 | 1位(ヤリスHV 4年連続) | 未発売/実車データなし | —(参考車種なし) | 2位 | 3位 |
| 将来目標 | X15に世代交代 | ユーロ7適合・電動化柔軟性 | 熱効率向上継続 | 次世代e:HEV(2027〜、具体値非公表) | 熱効率 50%(廃熱回収+定点) |
「公称ピーク熱効率」と「推定実走行平均効率」の二段表記が本表の特徴。BYDの46%という公称値は実走行平均では38-40%程度に落ちる可能性が高く、現行のトヨタM15A-FXEの41%との実効差はわずかと推定される。なおトヨタは現行3気筒(M15A-FXE)から将来のX15(4気筒)への世代交代でショートストローク化に転じる予定で、これは熱効率トレンドに逆行する選択(→ Section 03)。この乖離が生じる理由はBSFCマップ形状の違い(Section 10)、システム伝達関数の違い(Section 06)、動的最適化能力の差(Section 09)の3層から生じる。本表の数字は以降の各セクションで詳述する。
THS-IIの本質的特徴は、「エンジンを常に効率の良い回転域で動かしながら、その出力を機械的に直接駆動できる」という、他のどのシステムにもない性質にある。動力分割機構(電気CVT)と機械パス・電気パスの並列化が、この両立を実現する手段である。
遊星歯車を介してエンジン・MG1・MG2が常時噛み合う構造で、エンジン出力は機械パスと電気パスに同時並列で分割される。MG1の回転制御により車速とエンジン回転数を独立に決定でき、エンジンを常にBSFC最良点(典型的に2,000-2,800rpm)に保ったまま、出力の60-75%が機械パス経由で変換損失なくタイヤに到達する。
さらに極低速・低負荷領域ではエンジンを完全に停止してEVモードで走行する選択肢を持つ。エンジンが効率良く動かせない領域では構造的にエンジンを使わない、という戦略により、街乗りでのエンジン停止時間比率は40-60%に達する。
動力分割の宿命として、エンジン出力の一部はMG1で発電→MG2でモーター駆動という電気パスを通る。このパスには変換損失があり、特に高速域で累積する。
エンジン回転数を任意に取れる柔軟性があるため、エンジンは特定動作点に絞り切る必要はないが、広い回転域で平均的に高効率である必要がある。3気筒固有の振動も電気CVT経由で駆動系に伝わるため、PHEV化が進むほどNVH要求が高まる。
動力分割の電気パス損を補うには、車両全体での損失低減が有効。空力改善、車重低減、低ハイト化が、エンジン単体熱効率向上と等価以上の燃費効果を持つ。
X15は3気筒から4気筒に戻りつつ、SB比を1.0未満に振ったショートストローク設計。これは熱効率トレンドに逆行する選択だが、システム前提から正当化される:
エンジン単体熱効率ではなく、車両全体での損失最小化を狙う「面最適化」アプローチ。動力分割の宿命的な電気パス損を、空力・パッケージング・量産コスト優位で取り戻す戦略。多用途展開(HEV/PHEV/BEV/EREV)の柔軟性が最大の武器。
低~中速域はシリーズモード(モーター駆動、エンジンは発電のみ)、高速巡航時のみロックアップクラッチを締結してエンジンが直接タイヤを駆動。シリーズ時はエンジン回転数を任意点に置けるが、直結時はエンジン回転数=車速×固定ギア比に拘束される。
ホンダe:HEVは2013年初出のi-MMDが原型。BYD DM-iはこの構造を発展させたもので、思想的にホンダの延長線上にある。吉利Thorは3速DHTを加えてロックアップ可能領域を拡大している。
直結時にエンジン振動が直接駆動系に伝わるため、3気筒は事実上不採用。4気筒必須。シリーズ時は特定動作点で稼働するため、その点での熱効率を極限まで上げる設計が有効。
直結モードがあるため、ロングストローク高圧縮比による絶対熱効率の最大化が直接的に高速燃費に反映される。古典的なエンジン熱効率追求が報われる構造。
BYD Xiaoyun、吉利DHE、ホンダLEB(現行1.5L)はいずれも以下の方向で一致している:
エンジン単体熱効率を最大化する古典的アプローチが、直結モードを通じて直接的に高速燃費に変換される。BYD/吉利が世界最高熱効率を連続更新する競争に注力するのは、この構造で熱効率向上が燃費に最も効くから。
エンジンは発電機を回すだけで、駆動系と機械的に一切繋がらない。エンジン回転数は車速・アクセル開度から完全に独立。エンジンが何回転で動こうがドライバーには伝わらず、振動はモーター駆動トルクに完全にマスクされる。
反面、エンジン出力は必ず発電機→インバータ→電池→インバータ→モーターという変換経路を通る。各段95%効率でも累積で0.95⁵≈77%の損失を抱える。直結HEVと比べて、すべての走行領域で変換損失を支払う構造。
3気筒の偶力振動・回転2次振動が駆動系に伝わらないため、振動面の制約から解放される。エンジン回転数が任意点に置けるため、燃焼形態を「熱効率最良点だけで成立すればよい」と割り切れる。
定回転運転に特化することで、可変圧縮比やVVT-iのような可変機構の必要性が低下。第3世代ZR15DDTeで日産がVC-Turboを廃止したのは、定点運転特化なら可変機構が不要だと判断したため。
e-POWER専用設計の極致:
e-POWERの構造的弱点(変換損失累積)と、エンジン稼働領域の極限的絞り込みが可能という強みのトレードオフ。エンジン単体熱効率は高くできるが、それがそのままシステム燃費に反映されないのがe-POWERの宿命。日産が第3世代で「5-in-1」電動ユニットを導入し電気系効率を改善したのは、エンジン側でなく電気系での損失削減が、シリーズ式では支配的だと認識した結果。
エンジン熱効率から実走行燃費までの間に、何段階の損失が積み重なるか。各システムでの典型的な高速巡航時の効率カスケードを試算する。本セクションは定常状態の分析であり、実走行での序列はSection 09で再検討する。
上の試算は高速巡航時の値。低速ストップアンドゴー領域では構図が変わる:
「モーターは高速で効率が落ちる」という言説の物理的内実を整理する。正確には「ICEほど高速域で効率が上がらない」が実態に近い。
トルクと回転数の2次元マップで効率を表現すると、ピーク効率(95-97%)は中速・中負荷の比較的広い島状領域。そこから外れると以下の損失が増加する:
永久磁石は回転に伴って巻線に電圧(逆起電力)を誘導する。回転速度に比例して上昇し、バッテリ電圧に近づくとそれ以上の電流注入ができなくなる。
これに対抗するため、d軸(界磁方向)に電流を流して磁束を打ち消す弱め界磁制御を行う。打ち消し電流自体が銅損を増やすため、高速ほど効率が下がる。EVモーターの最高速付近では効率が80-85%まで漸減することがある。
これに対しICEの効率特性は逆方向に動く:
| 運転領域 | 典型的なICE効率 | 典型的なPMSM効率 | 効率差 |
|---|---|---|---|
| アイドル/超低負荷 | 10-15% | 85-90% | モーター圧勝 |
| 市街地(中速・中負荷) | 25-35% | 93-97% | モーター優位 |
| 郊外定速(中速・中負荷) | 35-40% | 95-97% | 差が縮小 |
| 高速巡航(中-高速・低-中負荷) | 40-43%(スイートスポット) | 88-93%(弱め界磁開始) | 差がさらに縮小 |
| 超高速・高負荷 | 30-38%(冷却損・ノック制御) | 80-88% | 領域による |
重要なのは、高速巡航時にはICE効率が自然にスイートスポットに収まる一方、モーター効率は弱め界磁損で漸減する点。両者の効率差が縮まり、e-POWERの「常時モーター駆動」のメリットが消失する。これが「e-POWERの高速燃費が伸びない」現象の物理的根拠である。
同じ車でも測定サイクルにより順位が入れ替わる。これは試験方法の特性であり、実走行での燃費はさらに別の要因で変動する。
| サイクル | 地域 | 最高速度 | 平均速度 | 高速比率の特徴 |
|---|---|---|---|---|
| NEDC | 中国(旧)・旧欧州 | 120 km/h | 33.6 km/h | 定速主体、HEV/PHEVに有利 |
| CLTC | 中国(2021〜) | 114 km/h | 29.0 km/h | NEDCよりやや厳しいが甘め |
| WLTC L/M/H | 日本(乗用車公表値) | 97.4 km/h | 46.5 km/h | Extra-Highフェーズなし |
| WLTP Class 3 | 欧州 | 131.3 km/h | 46.5 km/h | Extra-Highフェーズ含む |
| EPA Highway+US06 | 米国 | 129.2 km/h | 77.7 km/h | 急加減速含む厳しい条件 |
| 実走行(米国フリーウェイ) | 米国 | 120+ km/h | 100+ km/h | 制限速度75mph区間多 |
| サイクル | トヨタ THS-II | 直結HEV (Honda/BYD) | 日産 e-POWER |
|---|---|---|---|
| WLTC 市街地モード | ◎ | ◎ | ◎ |
| WLTC 高速道路モード | ◎ | ◎ | ○ |
| WLTP Extra-High(131km/h) | ○ | ◎ | △ |
| EPA Highway | ○ | ◎ | △ |
| 米国実走行(120km/h以上) | ○ | ◎ | × |
Section 06のカスケード分析は定常状態のスナップショットにすぎない。実走行は確率分布上の運転点群に対する積分であり、ここで支配的なのは「個別運転点での効率」ではなく「運転点遷移の自由度と速度」である。日本のリアル燃費データを見ると、定常分析が捉えきれない異常な現象が観測される。
株式会社イードが運営する燃費投稿サービス「e燃費」の年間アワード総合部門(実走行燃費による順位)を見ると、ヤリスHV(THS-II)が長期にわたって他を引き離して首位を維持している。
| 年度 | 1位(実燃費) | 値 | 2位 | 値 | 差 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2020-2021 | ヤリス(HV) | 28.3 km/L | プリウス | 24.5 km/L | +3.8 |
| 2021-2022 | ヤリス(HV) | 28.2 km/L | プリウス | 24.5 km/L | +3.7 |
| 2023-2024 | ヤリス(HV) | 27.7 km/L | アクア | 25.6 km/L | +2.1 |
4年連続でヤリスHVが総合首位、トップ10のうち8車種をトヨタHEVが占めるのが常態。フィットe:HEVやノートe-POWERは10位前後にようやく顔を出すレベル。これは「燃費を気にするユーザー層」というオーナーバイアスでは説明できないほどの大差である。
driver誌が同じドライバー、同じエアコン設定、同じルート(一般道135km+高速200km)で比較計測した結果:
| 車種 | システム | 実燃費 | WLTC値 | 達成率 |
|---|---|---|---|---|
| ヤリスHV | THS-II | 29.7 km/L | 32.6 km/L | 91.1% |
| フィットHV | e:HEV | 24.3 km/L | 27.4 km/L | 88.7% |
| 差 | — | +5.4 km/L (+22%) | — | — |
同条件でヤリスHVがフィットHVを5.4 km/L、率にして22%上回る。「直結モードを持つホンダの方が高速燃費で有利なはず」という前提(Section 06のカスケード分析が示唆する結論)が、実走行データでは明確に覆される。
カスケード分析と実走行の乖離を説明するには、各システムの動的最適化能力に注目する必要がある。
THS-IIの動的優位を支えるのは、二段階のエンジン使用戦略である。エンジンが効率良く動ける領域では、効率の良い回転数を保ったまま機械的に直接駆動する。一方、エンジンが効率良く動かせない極低速・低負荷領域では、エンジンを完全に停止してEVモードに切り替える。
典型的な制御マップは以下のようになる:
他方式との比較で重要なのは、EVモードの実現性そのものは各方式で大差ないという点である。ホンダe:HEVも構造上EVモード・ハイブリッドモード(シリーズ)・エンジンモード(直結)の3モードを持ち、低速域ではEVモードで走行可能。BYD DM-iはPHEVゆえにEV走行可能距離が桁違いに長い。日産e-POWERは小容量バッテリーと常時発電の構造上、EVモードがほぼ存在しないという例外はあるが、ホンダ・BYD系はTHS-IIと近い水準でエンジン停止走行ができる。
では実燃費の差はどこから生まれるか。差の本質はEVモードの広さではなく、「エンジンを動かす必要がある時の効率」にある。モーター・インバータ・電池の効率は各社で大差なく、ここでの差は限定的。決定的な差はエンジン稼働時の使い方で生じる:
つまりモーター側の効率では差がつかず、エンジンを動かす局面でのエンジンの使い方で実燃費の差が生じている。THS-IIの「効率の良い回転域 × 機械直接駆動」の組み合わせは、他方式が構造的に持てない特性であり、これが日本実走行での圧倒的優位の核心である。
各方式とも、バッテリーの電力のみでモーター駆動する局面ではほぼ同じ効率で走行する。違いが生じるのはエンジンが稼働する局面であり、ここで以下の構造的な差が現れる:
実走行の大半を占める中低速域でエンジンが回るシチュエーションにおいて、トヨタの「エンジン → 電気CVT → タイヤ」の方が、他方式の「エンジン → 発電 → モーター → タイヤ」より燃費を稼げる、という構造である。エンジン熱効率では中国勢に1-5ポイント劣っても、伝達経路の違いで実走行燃費を逆転できる。
THS-IIの本質的な強みは、個別運転点では1番でないが、運転点の確率分布全体に対する加重平均では圧倒的1番という性能曲線にある。
| 運転条件 | THS-II | 直結HEV | e-POWER |
|---|---|---|---|
| 信号停止・市街地 | ◎ | ◎ | ◎ |
| 郊外定速(50-70km/h) | ◎ | ○ | ○ |
| 高速巡航(80-100km/h) | ◎ | ○ 直結時◎ |
△ |
| 高速巡航(120km/h+) | ○ | ◎ | × |
| 登坂 | ◎ | ○ クラッチ切 |
○ |
| 加減速繰り返し | ◎ | △ 遷移損 |
◎ |
| 短距離トリップ | ◎ 熟成熱管理 |
○ | ○ |
THSは「○」と「◎」だけで、深刻な「△」「×」を持たない。一方ホンダ・BYD系はロックアップが効く特定領域で◎だが、外れると平均レベル。e-POWERは低速で◎だが120km/h超で×。日本の運転は「△」「×」を回避する能力が支配的であり、その意味でTHSは構造的に強い。
カスケードに表れない要素も複数効いている:
| 要素 | THS-II | e:HEV | e-POWER |
|---|---|---|---|
| 車両重量(ヤリス級) | ~1,130 kg | ~1,190 kg | ~1,230 kg |
| 熱管理熟成度 | 排熱回収・暖機最適化(28年蓄積) | 世代浅い | 世代浅い |
| 回生キャパシティ | MG2駆動兼用で大 | 中 | 大 |
| バッテリー運用 | 小容量タイトSOC(I²R小) | 中容量 | 大容量深サイクル(I²R大) |
| 制御・量産熟成 | 28年(1997年〜) | 13年(2013年〜) | 10年(2016年〜) |
電動化が進むほど、カタログ値と実走行値の乖離が拡大する。これには「ピーク値とBSFCマップ形状の差」「測定サイクルの厳しさ階層」「PHEV特有の充電前提問題」「ピンポイント世界最高競争」という複数の構造要因がある。
エンジン熱効率は本来、トルクと回転数の2次元マップ上の島状分布として表現される。BYD Xiaoyunの「46.06%」やトヨタの「41%」は、その最高点(ピーク)の数値にすぎない。実走行燃費に効くのは、エンジンが滞留する運転点群での平均効率であり、これはマップの形状(高効率領域の広さと深さ)によって決まる。
| 設計思想 | ピーク熱効率 | 高効率「島」の特性 | 実走行平均効率(推定) |
|---|---|---|---|
| 中国勢(BYD/吉利)型 | 46% | 狭い・尖った峰 | 38-40% 程度 |
| トヨタ型(Dynamic Force) | 41% | 広く平坦な台地 | 38-39% 程度 |
| 日産STARC型 | 42% | 中程度(定点運転前提で十分) | 39-40% 程度 定点滞留前提で実効最高値 |
ピーク46%と41%の5ポイント差は、マップ全体での加重平均では1ポイント程度の差に縮む可能性が十分にある。日本の自動車メーカーが実機調査した結果として「45%後半は確認できたが、その外側の効率がどう落ちるか」という観察があり、BSFC等高線の急峻さがトヨタ系より顕著だったとされる。
トヨタが「Dynamic Force」シリーズで一貫して「高効率領域の拡大」を強調しているのは、まさにマップ形状の最適化を目標にしているから。THS-IIは電気CVTで運転点を任意に取れるため、広い台地状の効率マップとの相性が極めて良い。逆にBYD DM-iの直結+シリーズ構造では、エンジンを設計上の「美味しい点」に絞って稼働させやすく、尖ったピークでも実用上は機能する。
中国系PHEVの公表燃費が桁違いに見える最大の理由は、測定モードの差である。中国市場で多用される NEDC や CLTC は欧州・日本の WLTC や WLTP より測定基準が緩く、PHEV/HEV に有利な条件を持つ。
BYD秦L DM-iの公表値「NEDC 2.9L/100km(≈34.5km/L)」は、WLTC換算では約3.7L/100km(≈27km/L)と推定される(日経Automotive換算値)。実際、第4世代DM-iの公表値「NEDC 3.8L/100km」はWLTC相当で約4.8L/100km、26%の悪化が確認されている。BYDが日本市場や欧州市場でPHEVを投入する際に、中国本国のような「2.9L/100km」を維持できるかは未知数である。
PHEVの場合、カタログ燃費は「電池満充電→走行→電池切れ」までの混合燃費で算出される。電池切れ後の走行(CSモード:Charge Sustaining)こそ、HEVと比較すべき真の燃費だが、カタログ表記では薄められる。
BYD SEALION7 DM-iのCSモードは「低速>中速>高速」となっており、高速ほど悪化するe-POWER的特性が露呈する(高速時はロックアップ作動率が高いはずなのに低速より悪い)。さらに中国では「PHEVオーナーの相当数が日常的に充電せず、ほぼガソリン車として使用している」との報告もあり、この使われ方では「2.9L/100km」は現実から完全に乖離する。
e燃費のデータから車種カテゴリ別のカタログ達成率を整理すると、電動化が進むほど達成率が低下する傾向が見られる。
これは複数の構造要因が重なった結果である:
なぜ中国メーカーが極端なピーク値競争に走るのか、いくつかの構造要因が考えられる。日経Automotiveは「中国メーカーが燃費よりも熱効率を追求するのは、ピンポイントの条件でも構わないので『世界最高』の称号を獲得することに心血を注ぐから」と分析している。
| 要因 | 内容 | 結果 |
|---|---|---|
| ① 補助金・規制の閾値設計 | 中国のNEV補助金や免税優遇は、特定閾値(航続距離・燃費・出力)クリアで階段状給付。「ギリギリ閾値超え」が最適解になりやすい | 技術投資が「全体最適」から「特定指標最適」に歪む |
| ② マーケティング上の単純比較需要 | 中国市場の消費者は「世界初」「世界最高」のラベルに敏感。汽車之家等で「熱効率○○%」が直接比較される | 1ポイントでも上回ることに大きな商業価値 |
| ③ 技術開発の遅さの隠蔽 | エンジン技術で歴史的に遅れていた中国勢にとって、「ピーク値だけを集中的に攻める」のが最短のキャッチアップ戦略 | マップ全体最適化の蓄積より、ピーク条件での記録達成に集中 |
| ④ 政府の産業政策との整合 | 「中国製造2025」「双碳目標」が「世界最高水準」を要求 | カタログ上の数字を作る政治的動機が強い |
これらは技術的批判というより、「数字の意味が変質している」という構造観察である。日本の自動車メーカーのエンジニアが「45%後半は出る」と確認している以上、技術そのものは本物。問題はその数字が消費者に伝える期待値(実燃費)との乖離である。
注目すべきは、トヨタが新型X15で熱効率の絶対値を強調していないことだ。「熱効率 41%」を打ち出して中国勢の46%と比較されると不利になるため、訴求軸を意図的にずらしている:
これは「我々はピーク値競争には参加しない」という明確なポジショニングであり、Section 09で見たTHS-IIの実走行優位を維持できる自信の表れでもある。マーケティング戦略としても、技術評価のフレーミング戦略としても合理的な判断である。
システムとエンジンを一体として、各方式の構造的な強みと弱みを整理する。なお実走行燃費による評価は、X15のような新規システムでの実車データが揃っていない時点では尚早であり、本セクションでは構造特性のみを比較する。
本稿は1.5L級ハイブリッドエンジンを単一指標で評価することの限界を、段階的に剥がしていった:
この4段を全て通過した後の実走行燃費序列は、①の単純序列とは大きく異なる。日本市場で観測される「THS-II圧勝」は、①〜④の全層でTHS-IIが構造的優位を持つことの帰結である。
「熱効率 46.06%」「NEDC 2.9L/100km」「カタログ 36 km/L」——これらの数字は技術的に虚偽ではないが、それぞれが特定条件下での値である。実走行での燃費は、エンジン単体熱効率×システム伝達効率×動的最適化能力×サイクル達成率という複合的な積で決まる。
本質は、エンジン熱効率という単一指標で順位付けする思考枠組みそのものが時代遅れになっていること。電動化の進展により、エンジンの役割がシステム全体最適化の一要素に格下げされたためである。BYDが46%を達成し、トヨタが41%にとどまるという事実は、単純な技術力差ではなく、異なるシステム選択に対する異なる最適解を反映している。